使用人兼務取締役の法的地位(弁護士今井慶貴)

 

株式会社の取締役の中には、「取締役営業部長」とか「取締役製造部長」などの職名で、使用人と取締役を兼ねている立場の人が見られます。

 

委員会設置会社を除いて(会社法331条3項*)、取締役が会社の支配人その他の使用人を兼ねることを禁止する規定はありません。

*平成26年改正後は、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社(会社法331条3項、4項)

 

一方、監査役については、経営者に対する監督機能を担うための独立性確保の要請から、支配人その他の使用人を兼ねることはできません(335条2項)。

 

さて、使用人兼務取締役の法的地位ですが、雇用契約に基づく労働者としての地位と、委任契約に基づく取締役としての地位とが併存していることに注意が必要です。

 

たとえば、取締役営業部長だとすると、営業部長としての職務に関する限り、労働者性が認められ、労働基準法や労働契約法の適用がありますし、就業規則に基づく懲戒処分や解雇の対象にもなります。

 

なお、労働時間・休日・休暇に関する労基法上の規制は「管理監督者性」が認められる限りは、適用にはなりません。

 

したがって、辞任や解任によって取締役の地位を失ったとしても、直ちに労働者としての地位を失うものではなく、逆に退職や解雇により労働者として地位を失ったとしても、直ちに取締役の地位を失うものではありません。

 

使用人兼務取締役の法的地位は、雇用契約に基づく労働者としての地位と、委任契約に基づく取締役としての地位とが併存していることになります。

 

使用人兼務取締役には、使用人としての賃金に加えて、取締役の報酬が支払われる場合も多いと思われますが、上記した地位の併存を踏まえて、その決定方法には注意が必要です。

 

まず、取締役の報酬の支払いには、株主総会の決議が必要です(会社法361条1項)。

これは取締役のお手盛り防止の趣旨ですので、別に使用人給与を支払うのが脱法行為にならないかが問題となります。

 

この点、使用人としての給与体系が明確に確立している限り、別に使用人給与を支給することを予定しつつ、取締役報酬のみを決議することは脱法行為にあたらないという判例があります。

 

次に、使用人としての賃金の支払いは、会社と取締役との間で利益相反行為(会社法356条1項2号)となりますので、原則として、取締役会の決議が必要になります。

 

この点、使用人としての賃金が取締役会の承認を得て一般的に定められた給与体系に基づいて支給されている場合には、改めて取締役会の承認を受ける必要はないという判例があります。

弁護士 今井 慶貴

 

<初出>

・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年12月1号(vol.163)企業・団体チーム22

・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2014年10月31号(vol.161)企業・団体チーム23

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。