休職中の解雇に関する最高裁判決

最高裁判決が出ました

 

休職中の労働者の解雇について、平成27年6月8日に注目すべき最高裁判決が出ました。

 

今回は、この最高裁判決で問題となった、業務上の怪我や病気で休職した労働者の療養費を使用者が直接負担していない場合に労働者を解雇することの可否について説明します。

解雇についての民法の定め

まず、使用者は、どのような場合に労働者を解雇できるのでしょうか。

 

民法では、期間の定めのない雇用について、各当事者はいつでも解約の申込をなすことができ、この場合において、雇用は解約の申入れ後2週間の経過によって終了する(民法627条1項)と規定されています。

 

つまり、民法上は、期間の定めのない継続的契約関係について、契約当事者が契約によって過度に拘束されることを防ぐためにいつでも契約を終わらせることが出来るという建前がとられ、ただ、相手の不測の損害を防ぐために一定(2週間)の予告期間が要求されているということです。

 

しかし、何の理由もなしに2週間の予告期間さえおけば解雇できるというのでは、労働者の地位はあまりにも不安定になってしまいます。

そこで、労働基準法や労働契約法等の各法律において、民法の定めよりも解雇できる場合が限定されています。

解雇の制限

1 解雇予告

使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告をしない使用者は30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条1項、同条2項)。

民法で2週間置けばよいとされていたものがここで修正されています。

2 解雇権濫用

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とされます(労働契約法16条)。

 

解雇権濫用にあたるかは個別の判断を要しますが、少なくとも理由のない解雇はできないことになっています。

3 特別の事由による解雇制限

解雇に理由がある場合でも、産前産後の休業中の解雇や組合活動をしたことを理由とする解雇など、特別の事由による解雇は、労働基準法や労働組合法等個別の法律で禁止されています。

業務上の怪我や病気で療養中の労働者の解雇

業務上の怪我や病気で療養中の労働者の解雇は、前述の3(3)の場合にあたり、労基準法19条1項本文で禁止されています。

ただし、使用者が費用負担をして療養を始めてから3年が経過しても治癒(症状固定)しない場合には、賃金1200日分の打切補償を支払えば解雇が可能とされています(労働基準法19条1項但書、同法81条、同法75条)。

 

なお、業務上の怪我等で3年経過前に治癒した場合に、後遺症が残っていて職場復帰不能であることを理由に解雇することについては、労基法19条1項の解雇制限は適用されません。

ただし、その場合も、別途解雇権濫用にあたるかどうかの判断は必要です。

最高裁で問題となった点

前述の最高裁判決の事案は、とある男性労働者が2002年頃から首や腕に痛みが生じて頸肩腕症候群と診断され、2007年に労災認定を受けて休職していたところ、使用者が11年に打切補償約1630万円を支払って同労働者を解雇したというものでした。

その男性労働者は、使用者に対して、解雇が無効であるとして、労働者としての地位確認を求めて訴訟を提起したのでした。

 

この事件では、使用者が療養費を負担せず、国が労災保険を支給している場合に、療養開始から3年経過後に打切補償を支払って解雇できるかが問題となりました。

 

たしかに、使用者が直接療養費を負担していない以上は、労働基準法19条1項但書の規定を適用する余地はないようにも考えられます。

他方、使用者は保険料を納めることで、労災保険から療養補償給付がなされているのであり、労働基準法84条でも、労災保険として療養補償給付がなされた場合、その限度において、使用者は補償責任を免れるとされています。

 

一審と控訴審は、労災保険と労基法上の災害補償とは独自の制度であり、労災保険給付を受けているからといって、明文の規定もないのに、労基法19条1項の解雇制限の解除を認めるのは使用者の負担等の観点からみて必要性に欠けると判断していました。

 

しかし、最高裁は、「労災給付は、使用者による補償に代わる制度であり、使用者の義務はそれによって実質的に果たされている」と解釈し、国から労災保険の支給を受けていれば「療養開始後3年が過ぎても治らない場合、打切補償の支払いで解雇できる」との判断を示しました。

おわりに

前述の最高裁の判断に対しては、「治療に専念して復職する権利が奪われる」、「大量解雇の道が開かれる」との批判もあります。

 

しかし、労基法19条1項の解雇制限を受けなくとも、さらに解雇権濫用にあたるか否かの判断が必要となるため、直ちに解雇が認められるわけではないと考えられます。

 

弁護士 小林 優介

 

<初出>

・顧問先向け情報紙「こもんず通心」2015年7月31号(vol.179)>

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。