改正育児・介護休業法 8つのポイント(弁護士五十嵐亮)

 

育児・介護休業法が平成28年3月に改正され、平成29年1月1日から全面施行されました。

 

育児・介護休業法は、正式名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。

この法律は、子どもの養育または家族の介護を行う労働者などを対象として、雇用の継続と再就職の促進と、職業生活と家庭生活との両立に寄与し、福祉の増進を図ることを目的とするもので、①育児休業・介護休業に関する制度と子どもの看護休暇・介護休暇に関する制度、②子どもの養育と家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置、③子の養育または家族の介護を行う労働者等に対する支援措置が規定されています。
今回の改正は、介護をしながら働く方や、有期契約労働者の方が、介護休業・育児休業を取得しやすくすることを目的としています。

 

ここでは今回の改正の8つのポイントについて解説します。

ポイント1 介護休業の分割取得

要介護状態にある家族の介護するための介護休業を、分割して取得することが可能となりました。
改正前の制度では、原則1回に限り、93日まで取得できるとされており、分割して取得することは認められていませんでした。今回の改正により、対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として、介護休業を分割して取得することが可能となりました。介護の始期、終期、その間の期間にそれぞれ対応するための改正です。

事業所で「介護休業93日、分割3回まで」という法の基準を上回る規定を定めることに問題はありません。たとえば、「介護休業期間通算93日、分割5回まで」「介護休業期間通算120日、分割3回まで」はいずれも法の基準を上回っているので可能です。ただし1回の取得期間の最低日数を設けることは認められません。

ポイント2 介護休暇の取得単位の柔軟化

介護休暇を半日単位で取得することが可能になりました。

介護休暇は、1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで、介護その他の世話を行うために休暇を取得できるものです。

改正前の制度では、介護休暇は1日単位で取得するものとされていましたが、日常的な介護ニーズに対応するため、今回の改正で1日単位または半日単位での取得が可能になりました。

ポイント3 介護のための所定労働時間の短縮措置等

介護のための所定労働時間の短縮措置の利用の条件が緩和されました。

介護のための所定労働時間の短縮措置とは、要介護状態にある対象家族の介護をする労働者について、事業主は、①所定労働時間の短縮措置、②フレックスタイム制度、③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、④労働者が利用する介護サービス費用の助成等のうちいずれかの措置を選択して講じなければならないとする制度です(選択的措置義務とも呼ばれています。

改正前の制度では、介護休業と通算して93日の範囲内でしか取得できないとされていました。今回の改正で、日常的な介護ニーズに対応するため、介護休業とは別に、利用開始から3年の間で2回以上の利用が可能となりました。

労働者がより仕事と介護との両立をしやすくするために、法を上回る措置を導入することも可能です。

ポイント4 介護のための所定外労働の制限(残業の免除)

今回の改正で新設された制度です。介護の必要がなくなるまでの期間に、残業の免除を請求できることになりました。

管理職のうち、労基法41条第2号に定める管理監督者については、労働時間等に関する規定が適用除外されていることから、所定外労働の免除の対象外となります。ただし、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」を意味し、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるとされていますので注意が必要です。

なお、労働者の真の希望により残業を行わせることは問題ありません。

ポイント5 有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和

育児休業について、有期契約労働者が取得できる要件が緩和され、将来的に雇用契約があるかどうかわからない人でも取得可能となりました。
育児休業は、原則として1歳に満たない子を養育する男女労働者が取得できる子を養育するために休業できる制度です。

有期契約労働者について、改正前の制度では、以下の要件を満たす場合にのみ育児休業を取得できるとされていました。

① 申出時点で過去1年以上継続して雇用されていること

② 子が1歳になった後も雇用継続の見込みがあること

③ 子が2歳になるまでの間に雇用契約が更新されないことが明らかである者を除く

今回の改正で以下の要件に緩和されました。

① 申出時点で過去1年以上継続して雇用されていること

② 子が1歳6か月になるまでの間に雇用契約がなくなることが明らかでないこと

ポイント6 子の看護休暇の取得単位の柔軟化

小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が1年に5日(子が2人以上の場合は10日)まで取得できる子の看護休暇が、介護休暇と同様に、半日単位で取得できるようになりました。

ポイント7 育児休業等の対象となる子の範囲の拡大

育児休業、子の看護休暇、所定外労働の制限(残業の免除)時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮措置の対象となる子の範囲が拡大しました。

改正前の制度では、法律上の親子関係にある実子・養子に限定されていました。

今回の開始絵で、特別養子縁組の看護期間中の子、養子縁組里親に委託されている子といった法律上の親子関係に準じると言えるような関係にある子については、育児休業制度等の対象に追加されることになりました。

ポイント8 マタハラ・パタハラなどの防止措置の新設

事業主は、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由として、解雇、降格、減給など不利益な取扱いをしてはならないとされています。今回の改正で、それに加え、マタハラ・パタハラなど、妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とハラスメントを防止するための措置を講じることが新たに義務化されました。
マタハラとは女性労働者に対する、妊娠・出産等を理由とした嫌がらせを、パタハラは男性労働者に対する、育児休業の取得等を理由とした嫌がらせを意味します。事業主は労働者への周知・啓発、相談体制の整備などによりこれらを防止するための措置を採らなければなりません。

企業が採るべき対応

今回の法改正は、企業や事業所の規模や業種を問わず適用されます。育児・介護休業、子の看護休暇、介護休暇、時間外労働、深夜業の制限、所定外労働制限、所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)については、就業規則等に制度を定めておく必要があります。

ハラスメント防止措置としては、就業規則に懲戒規定を定め、育児休業等に関するハラスメントに該当するような行為が行われた場合の対処・方針・内容を明記する方法が考えられます。その他に、ハラスメントを防止するための方針を明確化し社内で周知・啓発すること、相談窓口を設けること、ハラスメントが生じた場合には迅速かつ適切に対応し、原因や背景となる要因を解消するための措置を採ることなどが考えられます。

具体的な規定の方法については、厚生労働省が公開している『育児・介護休業等に関する規則の規定例[簡易版]』を参照していただくか、当事務所の弁護士にご相談ください。

仕事と家庭を両立しやすい体制を整備することは、優秀な人材の確保・育成・定着に繋がります。改正の趣旨と内容を理解し、よりよい職場づくりに活かしましょう。

 

※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。

[参考]

厚労省 育児・介護休業法が改正されます

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h28_06.pdf

厚労省 育児・会議休業法のあらまし

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/32_01.pdf

厚生労働省 育児・介護休業等に関する規則の規定例[簡易版]

http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h28_08_01.pdf